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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12402号 判決 1981年4月08日

原告 株式会社木下工務店

右代表者代表取締役 木下正雄

右訴訟代理人弁護士 柳重雄

同 梶山敏雄

被告 東京ビルディング株式会社

右代表者代表取締役 高橋昭夫

右訴訟代理人弁護士 羽田忠義

同 小池剛彦

同 宮崎好廣

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

四  ただし、被告において金四五〇万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二〇八万円及びこれに対する昭和五三年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、訴外株式会社コタニ(以下「コタニ」という。)に対し、昭和五三年二月二二日、被告所有の川崎市砂子一―一―八所在の川崎第三二東京ビル(鉄筋コンクリート造地下一階、地上六階建)のうち、地下一階北側部分一三二平方メートル(以下「本件店舗」という。)を、店舗(大衆酒場)として使用するとの目的のもとに賃貸した。

2(一)  原告は、コタニから、昭和五三年三月二三日、本件店舗につき、左記内容の店舗新装工事(以下「本件工事」という。)を代金二三〇八万円(追加工事分金一〇八万円を含む。)で請け負い(以下右の請負契約を「本件工事契約」という。)、同年四月末ころ、右工事を完成し、これをコタニに引き渡した。

(1) 工事内容 原告の供給する材料をもって、本件店舗内の仮設、撤去、組積、左官及びコンクリート、防水、タイル、軽量鉄骨天井、木工事、内装、建具、テーブル・イス、塗装、硝子、外部階段廻り、看板、電気、給排水設備、厨房器具、冷暖房設備、排気設備及び排煙設備などの各工事その他新装工事一切

(2) 工期 昭和五三年四月二〇日

(3) 特約 本件工事契約に基づく製作物の所有権は、代金完済のとき、原告からコタニに移転するものとする。

(二) なお、本件工事の施工は、昭和五三年三月一六日、原告、コタニ、被告の間において、「内装工事に関する規約及び注意事項」と題する書面を取り交わし、被告の指示と承諾のうえで、行われた。

3(一)  しかるに、コタニは、原告に対し、昭和五三年五月一〇日、本件工事代金のうち金一〇〇万円を支払ったのみで、その後、その余の残代金を支払わないまま、同年五月末ころ、倒産した。

(二) コタニは、被告との間で、昭和五三年七月一二日、本件店舗の賃貸借契約を合意解約し、同日、被告に対し、本件店舗及び原告が施工した本件店舗の内部造作設備等の製作物一切(以下「本件製作物」という。)を引き渡した。

4(一)  本件製作物の価格は、本件工事代金相当額である金二三〇八万円であるところ、被告は、次のとおり、本件製作物を第三者に売却することにより、ないしは、その所有権を附合によって取得することにより、右金二三〇八万円相当の利得を得た。

(1) 本件製作物のうち本件店舗に附合しないもの(以下「未附合部分」という。)については、前記2(一)(3)の本件工事契約の特約に基づき、未だ本件工事代金が完済されていなかったため、原告の所有に属するものであったところ、被告は、右の事実を知りながら、コタニとの間で、本件店舗の賃貸借契約を合意解約して本件製作物の引渡しを受け、更にこれを本件店舗の新規の賃借人に対して売却して引き渡すことによって、善意の右賃借人に右未附合部分を善意取得させた上、その対価を取得し、右未附合部分の対価相当額を利得した。

(2) また、本件製作物のうち本件店舗に附合した部分(以下「附合部分」という。)についても、本来その所有権は(1)記載の理由で原告に属すべきところ、被告は、本件店舗の所有者として、附合により右附合部分の所有権を取得し、その価格相当額を利得した。

(二) 原告は、右(一)(1)、(2)に記載の事由により、未附合部分及び附合部分を併わせた本件製作物全体の所有権を失い、金二三〇八万円の損失を受けた。

もっとも、原告はコタニに対し、金二三〇八万円の本件工事代金債権を有し、内金一〇〇万円の弁済を受けているが、その余の代金債権は、コタニが倒産したため回収の可能性が無く、無価値であるから、結局、原告の損失は、右金一〇〇万円を控除した金二二〇八万円である。

(三) 被告の右(二)の利得は、いずれも法律上の原因に基づくものではない。

5  よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、金二二〇八万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年一二月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)のうち、原告とコタニとの間で、本件工事契約が締結されたこと、本件工事が原告主張の日時ころ完成したことは認めるが、本件工事代金、本件工事契約の内容は知らない。同2(二)の事実は認める。

3  同3(一)のうち、コタニが原告主張の日時ころ倒産したことは知らない。その余の事実は認める。同3(二)の事実は認める。

4  同4の事実は、全部否認する。

三  被告の主張

仮に本件製作物が原告の所有であったとしても、

(一)  原告は、昭和五三年七月一二日、コタニが被告に対し本件製作物を引き渡す際、本件製作物の所有権を放棄した。

(二)  仮にそうでないとしても、原告は、被告に対し、昭和五三年七月一二日、原告において同年八月一五日までに本件店舗の新賃借人を斡旋し被告と右新賃借人との間に本件店舗の賃貸借契約を成立させることを解除条件として、本件製作物の所有権を放棄したが、同月一五日を経過するも、被告と第三者との間に本件店舗の賃貸借契約が成立しなかったから、右の条件は、不成就に確定した。

四  被告の主張に対する原告の認否

全部否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  被告が、コタニに対し、昭和五三年二月二二日、被告所有の本件店舗を店舗(大衆酒場)として使用するとの目的のもとに賃貸したこと、原告が、コタニとの間で、同年三月二三日、本件店舗につき、本件工事契約(但し、本件工事代金、本件工事契約の内容を除く。)をし、同年四月末ころ、本件工事を完成し、これをコタニに引き渡したこと、本件工事の施工が、原告、コタニ、被告の間において同年三月一六日、「内装工事に関する規約及び注意事項」と題する書面を取り交わし、被告の指示と承諾のうえで行われたこと、ところが、コタニは、原告に対し、同年五月一〇日、本件工事代金のうち、金一〇〇万円を支払ったのみで、その余の残額が未払であったところ、同年七月一二日、被告との間で、本件店舗の賃貸借契約を合意解約し、同日、被告に対し、本件店舗及び原告が施工した本件店舗内の本件製作物を引き渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、本件工事の内容は、請求原因2(一)(1)記載のとおりであって、その工事代金額は、追加工事分金一〇八万円を含めて合計金二三〇八万円であり、本件工事が施工されて、本件製作物が製作されたこと、本件工事契約において、本件工事による本件製作物の所有権は、工事代金完済のとき、原告からコタニに移転する旨の所有権留保の特約がなされていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで以下、不当利得の成否について判断する。

1  《証拠省略》を総合すると、本件工事の完成によって生じた本件製作物のうちには、本件店舗の天井工事の如く本件店舗と不可分の一体をなしてその構成部分となったか、又は本件店舗の構成部分の程度に至らないとしても、本件店舗に附着してこれを分離復旧させることが事実上不可能となるか若しくは社会経済上著しく不利な程度に至っているものと認められる部分と、看板等の如く、右のいずれの程度にもいたっていないものとが存在する事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  《証拠省略》によれば、被告は、本件店舗及び本件製作物の引き渡しを受けた後である昭和五三年一〇月ころ、訴外太郎丸観光株式会社(以下「太郎丸観光」という。)に対し、本件店舗を賃貸するにあたり、本件製作物一切を代金五〇〇万円で売却し、同年一一月一日、これらを引き渡して右代金の支払を得たこと、なお、右売買契約の際、太郎丸観光の代表取締役である訴外市堰勉は、被告から、本件製作物が被告所有のものであるとの説明を受け、その旨信じていたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

3  以上認定の事実と前記一の各事実によれば、本件製作物のうち本件店舗の構成部分となった部分については、本件工事の施行・完成により、民法二四二条本文の附合の規定によって本件店舗の所有者である被告の所有に帰したものと認められ、また、本件製作物のうち右程度に至らないとしても、本件店舗に附着してこれを分離復旧させることが事実上不可能となるか若しくは社会経済上著しく不利な程度に至っているものと認められる部分(この後者の部分についても、同条本文の附合により所有権が被告に帰属する如くであるが、本件工事は、被告の承諾の下に、賃借人であるコタニの注文によってなされたものであるから、右の部分は、民法二四二条但書の適用により、被告に所有権が帰属するものとはいえず、他方コタニと原告との間においては、前認定に係る所有権留保の特約に基づき、原告にその所有権が留保されているものであるから、原告の所有に属したものというべきである。)と右両者以外の部分については、太郎丸観光が本件製作物を善意で一括して買い受けその引渡しを受けたことにより、その所有権を善意取得したものと認められる。右認定を左右すべき証拠はない。

4  以上のとおりであるから、被告は、本件製作物につき、附合によりその所有権を取得し、あるいは第三者である太郎丸観光に売却して善意取得させることによって、いずれにせよ原告の所有権を喪失させ、原告に本件製作物相当の損失を与え、他方被告は右前段部分の価格相当及び右後段部分の売却対価相当の利得をしたものであり、右の損失と利得との間には、直接の因果関係があるものというべく、原告の損失は、本件製作物の工事代金二三〇八万円から既払の代金一〇〇万円を控除した金二二〇八万円である(コタニが倒産している以上、原告の残余の本件工事代金債権は無価値であると認むべく、右認定を左右すべき証拠はない。)が、被告の利得は、被告が本件製作物一切を金五〇〇万円で売却し、その代金を得ているところから、少なくとも金五〇〇万円を下ることはないものということができる(なお、この点について、証人市堰勉は、本件製作物は代金五〇〇万円では買いどくであった旨証言し、右証言によれば、被告の利得は右金額以上であったことをうかがわせるが、それが結局右金額以上の何程となるかの点を確定すべき的確な証拠はない。)。

5  そして、形式的、一般的にみて利得者に正常に帰属したと認められる利得ではあっても、損失者に対する関係で、実質的、相対的に観察した場合、右の利得をそのまま利得者に保有させることが公平の原則に反し、これを是認できない場合には、右の利得は、法律上の原因を欠くものというべきところ、前認定の事実関係のもとにおいて、前記附合によるあるいは第三者への売却による被告の利得については、右利得を被告に保有させることが公平の原則にかなうことについての特段の事情を被告において主張・立証しない限り、これを法律上の原因を欠くものとするのが相当である。

被告は、右の点につき、原告が被告に対し、本件製作物について所有権を無条件であるいは解除条件付に放棄した旨主張する。そして、《証拠省略》中には、これに副うかのような部分があるが、右は《証拠省略》に照らし、採用しない。

また、《証拠省略》中には、コタニにおいて、被告に対し、本件製作物についての所有権を放棄する旨の記載があるが、右記載のみでは、被告の右主張を認めるに十分ではない。更に、《証拠省略》中には、被告が原告に対し、昭和五三年八月一五日までの期限付で、本件店舗中の造作及び什器(本件製作物)の右店舗新賃借人に対する譲渡を認める旨の記載があるが、しかし、右《証拠省略》を総合すると、原告は、昭和五三年七月一二日、コタニの倒産後、本件店舗を右コタニにおいて被告に返還するに際し、未だ本件工事代金の未払分の回収が出来ていなかったため、被告と話し合ったところ、原告において同年八月一五日までは本件店舗の新賃借人を紹介することができ、同人に対し右店舗内の造作等(本件製作物)を売却しその代金をもって右工事代金を回収することができる旨の合意が原、被告間に成立し、右《証拠省略》は、右の合意を確認する趣旨で作成されたが、そのとき、右期限後の処理については何も合意がなされなかった事実が認められる(《証拠判断省略》)のであって、右事実によれば、同《証拠省略》の文書も、本件製作物につき原告に実質的な権利があることを確認したものでこそあれ、被告の前記主張を認める資料とはなりえないものというほかはない。

他に被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、前記特段の事情の存することについての主張・立証もない。

したがって、被告の本件利得は、原告に対する関係において、法律上の原因を欠くものというべきである。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、原告が被告に対し、民法七〇三条に基づく不当利得返還請求として、金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年一二月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右限度でこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言及びその免脱宣言につき、同法一九六条一項、同条三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 清水篤 裁判官土屋靖之は、職務代行を解かれたため、署名押印することができない。裁判長裁判官 仙田富士夫)

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